【症例: 交通事故でムチウチ症】

ヘルメットの長く硬いひさしを介して前頭部強打、首の後屈によるムチウチ症。 事故後1ヶ月 顔のしびれなど 頸部MRI (本人提供同意済み)


ムチウチ症との関連が疑われる画像所見


頚髄損傷所見


亜急性期の出血所見
写真で、内椎骨静脈叢という細かな静脈の網目が走行している部位に、T1はやや明るい信号、T2は高信号の円形巣が見られ、亜急性期の出血所見を疑う。


頸椎すべり症C2ーC3
加齢変性による頸椎すべり症は、C2ーC3間では極めて稀であることが知られている(Hayashi1987、 川崎 2001)。 ムチウチ症で、頸部 の屈曲・伸展のX線側面像の撮影(急性期、亜急性期で変化することあり、 Herkowitz  1984)は必須。


半棘筋の脂肪変性
首の深いところにあり、首を起立させる働きを持つ半棘筋は、むち打ち症で脂肪変性が健常者より強いことが知られている。 これは、首が硬直するなどして動 かさないため、エネルギーが余って、脂肪が貯まるためと考えられている(Abbott 2015、Elliott 2006)。


C3/4間の骨髄変性(Modic変性1型)
MRIでC3/4間にみられるT2高信号は、頚椎椎体の骨髄変性でModic変性とよばれる。  T1で低信号(写真省略)、 T2で 高信号変化(写真)であることより、Modic1型に分類され、骨髄浮腫や炎症によるものとされる。 
 ムチ打ち症との関連では、Anderson(2012)らの研究で、骨髄のMRI信号変化(Modic変性を含む)が、健康人より有意に多く認められて いる(オッズ比 3.04、P = 0.01)。 これは、ムチ打ち症による外傷でModic変性が発生する場合があることを示唆する。
 Modic1型は椎間板損傷が原因となって発生することが示唆されている。(Qiao 2018) そしてModic1型変性の大多数は数年で2型へ移 行することが知られている(Mann 2014)。10年以上の間隔をあけたMRIによるムチ打ち症133人の追跡調査(Matsumoto et al.2013)では、はじめ4人にみられたのModic変性が、10年以上たって、すべて消えてしまったことが報告されている。 Matsumotoらの研究ではムチ打ち症にModic変性を有意に多く見つけることはできなかったが、事故直後2w以内に全て撮影したため、まだ Modic変性が発生していなかった可能性や、MRIは現在の1.5Tより性能が低い0.5Tで撮影したため、感度良く検出できなかったことなどが考えら れる。
 このようなことから、Modic変性は、内因(加齢など)・外因(外傷など)をふくめた損傷と治癒のプロセスと考えることができる。 これは、骨折が外傷のみならず骨粗しょう症でもおこり、自然治癒するのと似ている。 
Modic変性の類型1〜3
https://radiopaedia.org/articles/modic-type-endplate-changes より
Modicらにより1988年に発表された分類、Modic1〜3型はそれぞれ以下に分類される。
  Modic type 1   骨髄浮腫や炎症   
        T1: 低信号
        T2: 高信号    
  Modic type 2 骨髄の虚血変性により、造血機能を失い脂肪に置き換わったもの。
        T1: 高信号
        T2: 信号変化なしあるいは高信号      
  Modic type 3   軟骨直下の骨硬化
        T1:  低信号
        T2:  低信号


参考文献;
Abbott R et al.  The geography of fatty infiltrates within the cervical multifidus and semispinalis cervicis in individuals with chronic whiplash-associated disorders.  J Orthop Sports Phys Ther. 2015 Apr;45(4):281-8.  PMID: 25739843
むち打ち症、回復者、健常人、各5名の頸部の冠状断面をMRIで比較。頸部の多裂筋と半棘筋において、むち打ち症の脂肪面積割合は 回復者や健常人より有意(それぞれP < 0.001、 P < 0.02)に大きかった。

Anderson  et al.  Are there cervical spine findings at MR imaging that are specific to acute symptomatic whiplash injury? A prospective controlled study with four experienced blinded readers.  Radiology. 2012 Feb;262(2):567-75.  
むち打ち症でMRIの頚椎、骨髄Modic変性、筋肉所見が見られる可能性は健常者より高いこと

Elliott J et al.  Fatty infiltration in the cervical extensor muscles in persistent whiplash-associated disorders: a magnetic resonance imaging analysis.  Spine (Phila Pa 1976). 2006 Oct 15;31(22):E847-55.  PMID: 7047533
むち打ち症(n=79)と健常人(n = 34)の、半棘筋の冠状断面をMRIで比較したところ、脂肪が占める面積の割合は、むち打ち症が健常人より高かった(C3からC7、 P <  0.0001) 。 とくに上位(C3,4)では、むち打ち症の脂肪面積割合は40%に近く、健常人面積の2倍だった。

Hayashi H et al.  .Etiologic factors of myelopathy. A radiographic evaluation of the aging changes in the cervical spine.  Clin Orthop Relat Res. 1987 Jan;(214):200-9.

Herkowitz HN, Rothman RH.  Subacute instability of the cervical spine.  Spine (Phila Pa 1976). 1984 May-Jun;9(4):348-57.
事故直後は無症状でも2週間ほどしてから、頸椎すべり症が発症するという報告があること。

Mann et al.  The evolution of degenerative marrow (Modic) changes in the cervical spine in neck pain patients.  Eur Spine J. 2014 Mar;23(3):584-9.
Modic変性は、類型内で移行すること、また消滅する場合もあることより、損傷と治癒の過程と考えられること。

Matsumoto et al. Modic changes of the cervical spine in patients with whiplash injury: a prospective 11-year follow-up study. Injury. 2013 Jun;44(6):819-24. PMID:23273320

Qiao P1 et al.  Modic changes in the cervical endplate of patients suffering from cervical spondylotic myelopathy. J Orthop Surg Res. 2018 Apr 18;13(1):90. pubmed 29669576
Modic変化は椎間板変性に続発すること。

川崎 元敬1), 谷 俊一2), 牛田 享宏2), 井上 真輔2), 山本 博司2) 「高齢者頚椎症性脊椎症における頚椎変性すべりの関与」1) 三愛病院整形外科 2) 高知医科大学整形外科。 中国・四国整形外科学会雑誌 Vol. 13 (2001) No. 2 P 141-144